報道記事(ノロ感染症)

被災中の避難所は、食事や物資の提供が受けられる他、雨風をしのぐことが出来るのがありがたい。
しかしながら、ここでの生活にはリスクもある。特に健康面に対して気をつけなくてはならない。
被災中は、知らず知らずに心身ともに疲労が積み重なり、病気に対する抵抗力も下がってくる。しかも、集団による共同生活であるため、病気の感染もしやすくなる。
健康の維持は、これからの生活再建においても基本となるため、被災中の病気は何としても避けたいものだ。
ここでは2つ、感染症とエコノミークラス症候群に対する予防について考えてみる。
なお、内容は”震災時のトイレ、衛生管理を考える”と”災害弱者の防災対策”から一部引用している。

感染症への注意
避難所のような大勢が集まる場所は、病気の発症や感染のリスクも高まる。日頃の衛生に対する意識や認識も人それぞれであり、トイレの後に手を洗うことなど普段からしないような人、どこでも不用心に触る子供、手を添えたり顔を背けることなく大きなくしゃみをする人など様々である。特に水が不足すると考えられる被災中は、手を洗うこともままならず、衛生を保つことが難しくなり、有害である雑菌の繁殖やウイルスの感染を引き起こすことが十分考えられる。
特に感染の確率を上げてしまうのが、炊き出しにおける調理作業中、食事の配膳と提供時である。ここでは提供者側からの感染だけではなく、受給者から感染するといった両方のケースが可能性としてある。
食中毒や感染症を避難所全体に蔓延させないために、防御としての衛生管理が大切になってくる。調理や配膳に関わる人達は、マスクと衛生用手袋と帽子の使用は必須であるし、受け取る側も手を事前に消毒することが必要になるだろう。食事を受け取る列の一番手前で手を差し出して、消毒液の手への噴霧を係から受けるようにする。
また、体調が思わしくない場合には、すぐに自己申告して欲しい。治療を受けて自身の体調の悪化を防ぐこともあるが、他への感染を未然に防ぐような心遣いも集団生活では大切になてくる。
災害弱者と考えられる乳幼児や高齢者、また病気療養中である人にとっては、被災中に新たな病気に感染することは、命の危険に繋がる可能性もある。感染症対策は重要である。

【ノロウイルス(感染性胃腸炎)】
激しい下痢や嘔吐を伴い集団感染しやすい。非常に丈夫なウイルスであるため、一般に市販されているアルコール系の消毒剤や除菌剤が効かない。汚物(吐しゃ物、糞便)の中には大量のウイルスが含まれている。もし、感染者が調理を担当した場合、配給の食品が汚染され、口にした人達へ感染していく。また、発病した患者の吐しゃ物や糞便を不適切な方法で処理することで、感染を拡大させる。処理する際には、必ずマスクとゴム手袋を着用し、汚物がはねないように新聞紙数枚で覆う。そして、その上に次亜塩素酸水などの消毒液の原液をまんべんなくスプレーする。汚物をビニル袋へ移してしっかり縛る(二重、三重が安心)。汚れた床面などが乾燥すると飛沫感染へと繋がるため、消毒液をスプレーして全て拭き取るようにしたい。汚れた着衣も同様に処理するが、洗濯が困難であればビニル袋に密閉し洗濯が出来る時まで保管しておく。
予防方法は、先ずは手洗いとうがいの励行である。水不足の場合は、それに代わる消毒スプレーやジェルなど用いて手の衛生を保つようにすることだ。また、食品は十分加熱したものを摂りたい。そして、避難所における共有物、例えばトイレについても、便座への接触で感染の恐れもあるため、消毒・除菌を目的に日々の清掃項目に入れておきたい。

【O157(大腸菌感染症)】
家畜(牛など)の大腸をすみかとする腸管出血性大腸菌で、これに汚染された水や食物から人の口へ入り感染する。腹痛を伴い、下痢(血便)や嘔吐を頻繁に引き起こし、死亡することもある。十分加熱していない肉を食べることなどから感染することがある。
この感染症の怖いところは、潜伏期間が4~9日間と非常に長く、誰も気づくことなく保菌者から知らず知らずと、人から人へ感染するところである。
予防としては、手洗いの励行により手の清潔を保つようにする。そして、調理は十分加熱し、取り置きせず早めに食べること。
むやみに井戸水を飲むことなく、水質の安全を確認することで、および安全のため十分沸騰させてから口にしたい。

【食中毒(感染型、毒素型)】
ノロウイルスによる胃腸炎も、O157のような大腸菌によるものも、食中毒として分類される。被災中は、体力も平時に比べて落ちていると思われるし、消化器系の働きにも多少の影響を与えているだろう。したがって、強力なウイルスや毒素を持たない菌に対しての抵抗力も下がり、食中毒を発症しやすくなっている。
また、食品の冷蔵や保管も十分でないと、菌も増殖しやすくなることも知っておきたい。
したがって、提供された食事の取り置きはせず、なるべく早く食べてしまいたい。捨てるのはもったいない、そんな考えも被災中は思うだろうが、不安を感じたら迷わずに廃棄し、絶対に口には入れないようにしたい。
全ての感染症対策に共通するが、手洗いの励行はここでも基本になる。

【インフルエンザ】
空気が乾燥する冬季においては、避難所内のインフルエンザウイルスの流行に気をつけたい。
ウイルス性呼吸器感染症で、悪寒を伴う高熱を生じ、特に小児と高齢者は重症化しやすい。全身の関節の節々が痛くなりグッタリとする、咳、くしゃみや鼻水が出るなど呼吸器系にも症状が現れる。感染者のウイルスを含む鼻水などが飛沫し、他の人の鼻咽頭へ侵入することで大量感染しやすい。特に空気の乾燥する時期は、ウイルスが浮遊し飛沫感染しやすくなる。
一般的には発熱などの主症状が改善されるまで感染防止のために人との接触が制限されるが(登校や出社の停止)、避難所においては難しくなる。したがって、感染しないように予防に努めることが必要になる。
医療用マスクの着用、手洗いとうがいの励行が基本になる。また、他の人の咳やくしゃみから遠く離れること、喉の保湿を意識すること、換気すること、床面のほこりっぽい空気を吸わないことなどだ。そして、抵抗力を上げるためにも1日3度の食事をしっかりとることである。

【風邪(流行感冒)】
上気道(鼻、口から声帯まで)の炎症で、ウイルス(かぜウイルス)感染が主な原因になる。寒冷や大きな気温差、栄養不足や食欲不振、睡眠不足やストレスなどによる体調不良から風邪を発症することがある。
発症したら、保温と保湿を行い、十分な栄養の摂取と睡眠による休養が必要になる。数日間で症状は改善される。必要に応じて市販の感冒薬にて症状の緩和をする。
なお、高齢者の場合は風邪から肺炎を引き起こす可能性もあるので、症状の推移に気をつけたい。
予防としては、手洗いとうがいの励行、適切な体温調節(衣服や室温による調整)、きちんとした食事、そして十分な睡眠(休養)になる。

エコノミークラス症候群を防ぐ
被災中は十分な水分補給と、数時間ごとに手足を動かすような運動をするように心がけ、同じ姿勢を長時間保つようなことのないようにしよう。
あまり動くことなく、窮屈な姿勢で長時間過ごしている(まるで旅客機のエコノミークラスの座席のように)と、足のふくらはぎの静脈内に血液の塊が出来やすくなる。そして、次に身体を動かしたことをきっかけに、ふくらはぎの静脈に溜まった血液の塊(血栓)が肺に向かって移動するが、呼吸器官として大切な働きをする肺の毛細血管を詰まらせ(塞栓)、呼吸困難を生じさせる。これが静脈血栓塞栓症(急性肺血栓塞栓症)、いわゆるエコノミークラス症候群と云われる、命を脅かし完治に時間を要する恐ろしい急性の病気だ。

避難所は多くの被災者により、足の踏み場もないほど密集している可能性があり、移動することを遠慮してしまう。また、そんな状況を回避するために、狭いながらも自家用車の中を避難場所として使っている被災者も居るだろう。しかし、気をつけなくてはならないのは、エコノミークラス症候群の発症だ。
離れたトイレに行くことを極力少なくするために、水分補給を控えると体内の血液濃度が高まり、より血栓を起こしやすくなる。そして、乗用車の座席に座ったままの状態では、心臓から遠く、更に心臓より低い位置に脚部がある場合、血液の循環が悪くなるから、発症しやすく非常に危険である。
年齢に関係なく発症する。特に女性は水分補給を意識的に避けるあまり、実際の発症例も多く、死亡したり、長年後遺症に悩ませている事例もある。

対策としては、①十分な水分補給を心がける、②睡眠中は脚部を心臓の高さにすること、③手足を動かすような運動を数時間ごとにすること、④むくみをほぐす脚部のマッサージをすること、⑤弾性ストッキングを履き事前のリスクを回避するなどである。

(災害弱者の防災対策より)