衣服

 私たちの体は、健康を維持するために間脳の視床下部にある体温調節中枢により、体温を一定に保つ(37℃前後の平熱を保つ)指令をしている。一例として、体温が上昇すれば、下げるために発汗を促す。体温が下降すれば、体内の熱を外に逃がさないように皮膚表面の血流を抑える。しかし、人間自身の体温調節システムの制御範囲を超える場合には、人工的な環境温度の調整や最適な衣服の選択とその着用が必要になってくる。

我々現代人は、人工的に快適な環境温度の恩恵を比重大きく受けてきたため、少しばかり体温調節の工夫を失いつつある。四季のある日本では、夏季と冬季における過ごし方、すなわち快適を保つ体温調節の工夫があった。
日本の夏の暑さは湿気も多く厳しいが、繊維素材も考えた薄着、水分補給や冷えた食べ物、うちわで扇ぎ風の心地よさを感じたり、行水や手足を水で冷やすことなどで快適さを求めていた。
一方、冬の寒さに耐える工夫は暑さほどなく、人間にとっては苦労がある。保温性のよい素材の衣服を着る、温かいものを飲む食べる、運動をするなどごく限られる。しかも、運動で暖めることは、短期的な対処法であり、エネルギーも体力も消耗する。
防寒のため、衣服は手足の末端まで考慮が必要になる。

さて、災害時についての衣服を考えてみよう。
被災による停電の場合、エアコンによる室内空調が出来なくなる。ガスによる冷暖房システムも同様である。石油による暖房がかろうじて使用可能でありそうだが、余震に対する消火の準備は怠りなくしておきたい。
やはり、衣服による最適な体温調整を行うことが、主として求められる。

夏季における衣服は、通気性や速乾性について考慮したい。
被災中は入浴さえも困難にし、汗を洗い流すことが出来なくなる可能性もある。そのままにしておいたら、皮膚への炎症(あせも)なども十分考えられる。発汗しても衣服の通気性により肌をさらりとした状態に保つことが必要になってくる。
それでも汗をかく、肌着を含めて衣服が汗により湿ってくるだろう。肌に直接接する衣服に対しては、着心地も考えておきたい。ここは意見が分かれるところであるが、着心地を優先したら木綿(コットン)がベストである。しかし、汗などの水分吸湿性に優れるため湿りやすい。通常においては、着替えればよいので、これはデメリットではなくメリットと云える。ところが、着替えることが制限されると、湿った衣服を着続けなくてはならなく不快であり、また体温奪い体調に影響を及ぼすだろう。したがって、速乾性素材の衣服が被災時には好ましい。実のところ、この考えはアウトドアにおける衣服の選択に共通している。
ただし、例外が一つある。赤ちゃん(乳児)は、とてもデリケートである。なので、個人的には木綿の肌着を着せてあげ、こまめに着替えさせてあげることを推奨する。生地も小さいので、少量の水で洗濯でき、しかも乾かすのも苦にならないだろう。そのためにも、赤ちゃん用の肌着のストックは多めにあってもよいだろう。

冬季の衣服については、夏季に比べると検討すべき項目が増える。
前述の通り、寒さに対しての体温調節が難しいことにより、着用する衣服に対しての要求が多くなるからである。
具体的には、保温性と保湿性を兼ね備え、環境温度(外気温や室内温度)によって調節できることだ。基本的に長袖、長ズボンになるので、動きやすい伸縮性も求められる。
肌に近い衣服については、夏季の衣服選びと基本的には同じである。通気性と速乾性を重視したい。そして、その上に着用するもの、またその上に着用するもの、このように重ね着(最近はレイヤー、層としてベース、ミドル、アウターの3つを基本としている)を基本として、脱ぐ、着るを都度出来るようにするのが望ましい。
また、手足の末端についても配慮が必要だ。末端が冷えると、体全体が不快と感じるからだ。特に靴下は木綿ではなく、化繊やウールを素材としたものを選びたい。そして、手袋についてもフリース地のような保温性の高いものがあると快適に感じる。
安静時と活動時において、体の温まり方が異なる。当然、活動すれば体温が上昇し、発汗してくる。そのような場合、重ね着した衣服を脱ぐことができれば、適切な衣服内の温度調節が行え快適を維持できるが、脱げないケース(脱ぐと寒くなるなど)もある。その様なときには、首筋、手首、足首などの動脈が皮膚表面に流れている部分を外気に当てるなど、冷やすようにするとよい。瞬間的に汗が引き、快適さが改善するだろう。
そして、衣服ではないが、携帯カイロを付加的に使用すれば、寒さだけでなく安心感も得られると思う。

最後に、高齢者の方は、体温調節のコントロールが苦手になりつつある。これは、老化によるものである。発汗しづらい、喉の渇きが遅れるなどとして現れる。
したがって、より適切な体温調節に努める必要がある。
着心地、伸縮性の他、低刺激性の生地を選ぶのも大切になる。