ガスコンロ

 長期備蓄用の非常食となると、保存性の高い乾パンやビスケットなどの小麦粉と砂糖を原料としたものが主流であるし、震災発生直後の支援物資配給も菓子パン(調理パンではないもの)、スナック菓子、せんべいといった運搬が容易なものから始まるであろう。そして、ラッピングされたおにぎり(コンビニおにぎり)が配られれば、炊いたご飯と中身のおかずと考えれば、初めての食事らしい食べ物となるのであろう。
避難所が開設されて、ガス燃料ボンベやコンロ、鍋など含め加熱可能な調理の準備が整えば、炊き出しによる食事の提供もスタート可能になる。ただし、被災の状況や食材調達の目処によっては、スタートまでの日数に違いが出るだろう。
もちろん、避難所ではなく、自宅などの個人スペースにて被災中を過ごす場合においても、震災後の食事については、同じような状況が想像できる。
私たちの思いとしては、被災中の食事は胃袋を満たすだけではなく、癒しや楽しみを伴い、健康維持のための栄養素補給も満たして欲しい。そのための調理について考えてみる。

【水洗い】
 日常において考えてみる。調理時には大量の水を使用している。多くは手の清潔、食材の清潔を保つための水、そして調理器具や食器類の洗い物に使う水である。料理中に含まれる水の量は、それらに比べたら非常に少ないのが分かる。
水道の断水であれば水は貴重なものになり、日常と同じ使い方は出来なくなる。
手の清潔を保つために”調理用手袋”を使用したい。これによって調理中の手洗いを減らせる。食材の清潔、これは野菜類などの表面についた泥やホコリを洗い流すことであるが、泥は飲料水ではない井戸水や雨水で取り除きたい。そして、最後にペーパーでの拭き取り、あるいは気になるようであれば薄く皮を剥けばよい。葉物については、汚れだけではなく小さな虫も付いていることがあるので、よくふるい落としておきたい。最近はハウス栽培や露地物(屋外の畑)でも汚れが付きにくい栽培をしているため、私個人的には濡れたペーパーでホコリを拭き取り、加熱料理にすれば全く問題ないと思っている。もやしなどは、パックされ既に洗いを不要にしている。
食器類の洗い物についても工夫次第で水の消費を減らすことが出来る。防災対策の知識と実際の中の”被災中の食べる、その調理と工夫”も参考にして欲しい。

【切る、混ぜるの下準備】
 冷蔵庫内に食材、特に肉類、魚類があるのであれば、これらから調理して食べたいところだ。特に停電になれば、冷蔵庫(冷凍庫)としての機能はなくなるため、保存時間の短いものを廃棄することなく食べたい。
精肉や鮮魚の購入した状況にもよるが、包丁とまな板によって加工(切る、開く)しなければならない。水事情が悪いときには、まな板にラップをして使用するなど極力汚さないようしたい。または、包丁とまな板を使わない料理も検討してみてもよいだろう。
精肉であれば、ビニル袋に肉と調味料を入れ外から袋を揉みながらかき混ぜるなどと云う方法もある。この場合、もちろんフライパンを使った焼き肉になる。鮮魚なら塩を適度に振り掛けて焼き魚(フライパンを使うのが簡単)にすることも出来る。キャンプ料理に近いが、震災後の数日は冷蔵庫内の食材を有効に使うための工夫が必要になる。
水の不足する環境の中では、調理器具の洗浄についても苦労すると思う。したがって、なるべくペーパーによる拭き取りによって清潔を保てるように考えたい。表面加工を施したフライパンは、炒め、煮る(蒸し煮)、焼くに万能であり、焦げによる食材の貼り付きも少ないので便利である。包丁やまな板は、雑菌の繁殖を防ぐため、食器に使用可能な除菌スプレーを噴霧したり、熱湯ですすぐ等の対応が必要になる。

【味付け】
 しょっぱさ、辛さ、甘さ、すっぱさなど、調理には味付けが必要になってくる。しかし、注意しなければならないのが、基本の味を誰に合わせるか考えておく必要があることだ。
子供や高齢者が含まれているのであれば、基準を薄味にしておき、取り分けや配膳後に個々の器において好みの味付けをするようにしたい。
そのために、調味料はそれぞれに準備しておきたい。準備と云うよりは、日常使用しているもので構わない。塩、醤油、味噌、七味唐辛子、こしょう、砂糖、酢は、使用頻度も高いだろう。好みによって、からし、わさび、豆板醤、タバスコなどでの味付けもありだろう。基本は薄い味付けであることで、全ての人に対応できるようにすることだ。
さて、日本人の食生活に味噌汁は欠かせない。そのためにも、味噌を常備しておきたい。味噌は密閉状態であれば、冷蔵庫でなくても冷暗所への保管であれば問題ない。また、出汁(だし)作りのために粉末・顆粒状のかつおだしが使いやすい。無塩、化学調味料無添加の商品もあるので、小さい子供にも安心して使用できる。味噌、粉末だし、乾燥具材(わかめ、ねぎ、お麩)をお湯でかき混ぜるだけで、美味しい味噌汁が出来上がる。

【温める】
 夏の暑い時期でない限り、やはり温かい食事をしたいと思う。寒さの中、温かなスープなどは、心を元気に、また生き返る思いであろう。冷たくなった食べ物は、体を冷やし、体力を消耗する。これは、スポーツや登山の世界でも気をつけられている点だ。
なので、被災中において、食べ物を温める方法について考えておきたい。
カセット式ガスコンロ、これは必ず準備しておきたい。もちろん、十分なカセットガス燃料も備蓄して欲しい。鍋ややかん、フライパンなどはキッチンからでもよいし、アウトドア用のものを別途準備しておいても、良いかも知れない。
”湯煎”のテクニックを覚えておくと、効率的に食材を温めることができる。湯煎とは、レトルトカレーやレトルトミートソース、パック米飯などの温め方を想像してもらえればいい。鍋でお湯を沸かして、その中に食材が密閉された袋(パック)をどっぷり浸けて温める方法だ。煮物、油を使ったもの、そして白米からお米も炊けるので、とても便利だ。”洗い物を減らす工夫”でも紹介しているが、料理本も市販されているので参考になる。なお、耐熱性に優れた高密度ポリエチレン製のビニル袋も用意しておくとよい。
なお、1つ注意点を書き加えたいと思う。震災直後のしばらくは、大きい余震の発生が起こるため、”火の用心”と”火傷の回避”を徹底させたい。カセット式ガスコンロやアウトドア用のコンロやストーブは、地震の揺れによる安全装置がないため気をつけたい。
具体的には、①加熱器具類は(落下防止に)床面近くに設置、(避難向けに)周辺スペースを広く(引火防止に)可燃物を置かない。②加熱器具のを使用中には、離れてはいけない。③緊急消火の準備をしておく。④(リスク低減に)出来れば中火までで、強火にはしない。などである。