家具の固定

 洋服ダンス、本棚などの背の高い家具の転倒は、震災発生時に凶器となる。
大地震であれば、揺れ始めて5秒後には、バランスを失った家具は転倒しているだろう。
特にすぐに逃げ出すことの出来ない就寝中においては、大きなリスクと考えるべきであろう。
一般的な家具の場合、高さに比べて奥行きの寸法が短いため、地震のような揺れの時には前方に倒れやすい。重心が下方にあれば家具設置の安定感が増すが、通常はあまり重量配分の意識なく整理されるだろうから、倒れないような対策をしておく必要がある。

過去の地震の揺れを再現したシミュレーション動画を見ると、部屋の壁面に設置された家具はいきなり手前に倒れるのではなくて、床面に接する家具の底部が手前にせり出してから、全体が前後に激しく揺さぶられている。家具の重心が高ければ、すぐにもバランスを崩して前方に倒れてくる。
そこに人がいれば、人が寝ていたら、そんなことを想像すると恐ろしい。寝室には高さ120㎝を越える家具は置かないこと、これが私の基本的な考えだ。

さて、部屋の家具が倒れないように固定する方法には、大きく3つのやり方がある。
せっかく防災意識を働かせ、家具を固定するパーツを取り付けても、実際には役に立たなければ意味がない。それぞれのパーツの特長と施工における注意点を考えてみよう。

【L字固定】
 最も効果的と云われる方法である。家具をL字型のステー(強度を補強する金具)で部屋の壁にボルト(ねじ)締めで固定する方法だ。通常は、家具の上面奥の左右2ヶ所と壁を繋ぐことになる。家具の転倒防止、もしくは転倒を遅らせる効果がある。

しかし、施工における注意点もある。
先ず、ボルト(ねじ)留めできる丈夫な壁があることだ。なるべくなら、建物の強度を保つような下地材への固定がベストである。
薄いベニヤ材や石膏ボードへの固定であると揺れの大きさによっては、引き裂かされる、ボルト(ねじ)が抜ける可能性がある。壁面を補強してからの固定もあるが、その場合は大工さん、工務店など専門家に相談することをお勧めする。
一方の家具側の強度もチェックしておきたい。L字型ステーを取り付けても、家具表面との固定が弱ければ外れてしまう。そのような可能性があるのであれば、家具上面のL字型ステー取り付け面を角材(家具の横幅に合わせて)を接着して補強してしまおう。
そして、最後の注意点は、深く固定できるように出来るだけ長いボルト(ねじ)を使用して、簡単に抜けないようにしたい。

さて、この方法は効果があるため、家具転倒の防止として是非やって欲しいのであるが、残念ながら持ち家でないと難しいこともある。借家の場合、オーナー(大家さん)の許可が必要になるし、場合によっては退出時に原状回復工事の対象になるかも知れない。
防災への関心の高いオーナーさんであることも、対策準備の強い味方であることが云える。

付け加えて、同じ効果を得るためにボルト(ねじ)を用いずに、ゲル状の粘着性素材の家具・壁面への密着により、家具の転倒防止を施工する商品がある。借家の場合には、この方法が大いに助かるが、施工時の各面への密着が重要であるため、施工後においては経年によって剥がれが生じていないか、定期的にチェックする必要がある。

【敷物(滑り止め)】
 大きな揺れによる家具の動きを見てみると、いきなり倒れるのではなく、床上を滑り前にせり出した後にバランスを崩して倒れている。これは前述でお話しした通りである。
特にフローリングように滑らかな床面であれば、いとも簡単に家具は移動するだろう。カーペット敷きの場合は、表面の素材などにも左右されるだろうが、絶対家具が滑り出さない保証はないだろう。カーペットの床面への密着度も低ければ、カーペットを載せた家具ごと移動することも考えられる。カーペットの床面滑り止め対策も考えておきたい。

では、具体的な施工を考えてみる。日曜大工(DYI)のお店に行くと、密着性のよいゴム製の薄いシートなどが売っている。家具の滑り出し防止、このような名称で販売されている商品もある。あるいは、ゴム製プレート(数ミリ厚さ)を自身で切り取って、家具下に挟み込めるように加工することも出来るだろう。どちらも床面とカーペットの間の摩擦力を増し、床面から容易に家具が移動しないようにしている。気泡緩衝材式のシート(プチプチ)を家具下に敷くことで、同様の効果を与えることも出来る。この場合は、両面テープを併用し、数枚重ねた方が密着性が増すだろう。

実はこの床面の滑り止め対策は、次にお話しする”突っ張り棒”との関係が大いにある。
すなわち、床面滑り対策を忘れていると、突っ張り棒対策が有効に働かなくなるのだ。
突っ張り棒対策、または同様に家具上部への施工を考えているのであれば、同時にこの敷物による滑り止め対策も行っておきたい。

【突っ張り棒】
 意外と昔から知られる家具転倒防止の方法だ。特に借家であっても壁に穴を開ける訳でないため、導入の敷居が低いのが特長である。家具の上面から天井までの高さによって収縮自在な商品も多く発売されている。
この突っ張り棒の元をたどれば、家具の上面に隙間なく段ボールや書籍を挟み込むことによって、部屋の床面と天井面の間に家具が動かないように固定した、まだ商品がない時代の震災対策の知恵からである。私も子供時代には、それの手伝いをしたのを覚えている。
なので、突っ張り棒を買わなくても、敷物(滑り止め)とこの原始的な家具上部の固定を施せば、L字固定に相当する家具転倒防止の有効性があるわけだ。

突っ張り棒を購入すると、施工方法と注意書きが記載されているため、よく読んでおきたい。注意点を挙げておく。
(1)天井の強度が必要とされるため、あらかじめ下地材(角材)が通っているかの確認をする必要がある。
(2)取り付け方向がある。家具が全面に倒れてこないことが目的であるため、一文字型の接地面の場合は、
   揺れで突っ張り棒が倒れないように取り付ける必要がある。
(3)家具の上面と天井までの距離が長すぎると、この方法は難しい。商品の伸長調節のリミットを越えて設置しないようにする。

この突っ張り棒が使えない場合、チェーン(鎖)にて家具上部と壁面を繋げる方法もある。
ただし、チェーン自身の強度のみでなく、家具と壁の接続部の強度も要求されるため、その選択は難しい。施工に不安を感じるのであれば、経験者や専門的な知識のある人への相談がよいと思う。

【ガラス飛散防止フイルム】
 茶箪笥(ガラスの扉が付いた)などのガラスの扉が取り付いている家具は、その飛散に気をつけたい。
大きな地震の場合、棚や茶箪笥の中のものが、ガラス製の扉を内側から破壊する可能性がある。割れれば、外側に飛散するだろう。
その防止対策として、ガラス飛散防止フイルムが商品として販売されている。お近くのDYIショップなどで扱っているだろう。
家具転倒防止の施工と同時にやっておけば、安心感も高まるだろう。